EV が普及する 5 つの理由

半導体技術は、継続的なイノベーションにより EV(電気自動車)を強化し、EV 導入の障壁を克服、消費者のニーズに応じた手頃な価格の車を設計する自動車メーカー各社の支援を可能とします

12 1月 2023

私が最初に EV (電気自動車) にかかわったのは 5 年前のことですが、最初に購入した当時と比べて、現在ではより多くの魅力を見いだすことができます。

まず第一に、もうガソリン代を気にする必要がありません。自宅の車庫で夜間充電しているので、航続距離の不安もありません。私が住んでいる香港では、非常に多くの急速充電インフラがあります。アクセル・ペダルを踏みこむと瞬時にトルクが発生し、この街を走る数々のスーパーカーにも追いつくことができます。

ハイブリッドと EV のパワートレイン技術を設計する部門を率いていることもあり、仕事を通じて、EV に関する独自の視点をもっています。私は、EV をバッテリや電気モーターを搭載した自動車として見るのではなく、EV は大型の電子デバイスであり、継続的な革新による急峻な上昇曲線を描き、それらの革新は、通信インフラ、エンタープライズ・コンピューティング、パーソナル・エレクトロニクスの各市場にも大きな変革をもたらしていると考えています。

TI の技術は、EVをいっそう身近なものにし、私たちの世界をより安全でエネルギー効率の高いものにするために役立っています。ここでは、EVが今後も普及し続ける理由を 5 つのイノベーションで紹介します。

1. 航続距離への信頼感

消費者がEVの購入を検討するにあたり、大きな懸念事項の1つが、バッテリ電力の枯渇、つまり電力切れです。この点では朗報があります。先進のバッテリ管理システム (BMS) が、航続距離、安全性、信頼性、コストの懸念など、複数の重要な障壁を克服するのに役に立ちます。自動車メーカー各社は、実現可能な範囲で最長の航続距離を達成しようと懸命に取り組んでいます。バッテリの充電状態に関する高精度の計算は自動車のバッテリ内に残っている充電量を正確に把握するために不可欠です。TI の新製品は、電圧と電流の測定精度を大幅に向上させ、自動車メーカーは自信をもって真の航続距離を高精度で測定することができます。

バッテリ・モニタとバランサの進歩に伴い、充電状態と正常性の状態に関する測定は向上しており、自動車メーカー各社はこれまでに市場で入手できたどのセル・モニタも上回る範囲で、自動車のバッテリ・パックの充電と放電を行うことができます。その結果、不確定性が低減し、EV の航続距離を効果的に延長すること、また自動車メーカー各社が従来と同じ実効航続距離を維持したまま、バッテリ・パックの小型化と軽量化を行うことができます。

2. 充電の高速化

自宅や長時間のドライブで、EVをより便利に早く充電できないかと考える人は多いでしょう。バッテリに悪影響を及ぼすことなく充電を高速化するための鍵は、各バッテリ・セルに対して最適な電圧と電流を継続的に供給することです。最新のオンボード・チャージャ・ソリューションを採用すると、充電を高速化し、瞬間ごとに各バッテリ・セルが取り扱うことのできる最大の電流と電圧でチャージャが電力を確実に供給できることに加え、セルの寿命短縮や容量減少につながる可能性のある過充電や過熱の条件を回避することができます。

現在、私は夜寝ている間に自宅の車庫で EV を充電しています。将来、自宅の DC ウォールボックス、家庭設置用の充電器を使用して 800V バッテリを 2 時間以内に充電できるようになると予測しています。実際、いくつかの機器メーカーはわずか数分でフル充電状態にできるような技術の開発に取り組んでいます。加えて、半導体技術によって可能になった双方向充電の成果により、自動車からグリッド (V2G) 、自動車から自動車 (V2V) 、自動車から各種インフラ (V2I) への電力転送が現実のものとなりつつあります。

 

3. 航続距離を犠牲にしない加速性能

私は EV の加速性能を気に入っています。スピーディーかつ楽しく運転できるからです。トラクション・インバータ・システム は、バッテリのエネルギーを、トルクや速度を制御するための電力に変換します。このシステムは、EV の航続距離、性能、運転環境の背後にある推進力です。このシステムはバッテリからエネルギーを引き出し、多様な条件下で最高クラスの性能を達成するのに必要な大電流と大電圧を迅速に切り替えて電気モーターに供給します。ドライバーが加速をしようとするときに、滑らかで楽しい運転環境を確実に実現するには、トラクション・インバータ・システムの効率が鍵になります。

半導体の高度な機能、たとえば絶縁型ゲート・ドライバの調整可能なゲート・ドライブ電流を活用することで、EV は路面状況、運転スタイル、天候に基づいてエネルギーの使用量を調整することができます。曲がりくねった急峻な山道を進むときも、平坦な大地を走るときも、バッテリの充電を無駄にすることはありません。

 

4. より安全で、より信頼性の高い走行を実現

TI  のパワー・マネージメント技術を採用すると、航続距離の延長や充電の高速化に加えて、高精度の電源保護と機能安全対応機能を実現し、自動車の動作を保護することができます。その結果、消費者は自らの EV が安全で頼りになるという安心感を持つことができます。バッテリの過充電、過熱、過放電を防止すると、バッテリの寿命と安全性が向上します。また、これらの特長は、部品の突然の故障が原因で自動車が動けなくなる事態やドライバーと乗員が危険にさらされる事態の防止にもつながります。同時に、最新の各種センサやマイコンを採用することで、ドライバーの高度安全支援システムをいっそう推進し、突然の危険が迫った場合にアラートを発するか、操作を自動的に補助することができます。

 

5. 低コスト化

自動車の電動化における技術トレンドにより、自動車メーカーはさまざまなモデルや次世代の車両で使用できるシステムアーキテクチャに関する設計を再考することができます。これは、革新を実現する絶好の機会です。自動車メーカー各社はシステムの再検討と再開発を行い、(自動車を複数のゾーンに分けて考える) ゾーン制御、統合型パワートレイン、ワイヤレス BMS、インテリジェント・バッテリ・ジャンクション・ボックス、双方向充電などの革新的なソリューションの導入を検討しているところです。その結果、性能、航続距離、快適性、システム全体のコストを改善することができ、消費者は EV を入手しやすくなります。

将来の構想

EV をもっと身近なものにするという構想は実現しつつありますが、さらに先があります。このような変化を引き起こすために必要な高度な部品はいま手に入れることができます。ここでは、今後の構想、展望を紹介します。自動車通信プロトコルの標準化がいっそう進むと考えています。クラウド・ベース・コンピューティングの採用で、自動車のフリート管理 (走行経路、走行時間帯、速度の指定などを通じて一連の自動車の走行を効果的に管理) 、バッテリの経年劣化の計算、故障予測アルゴリズムなどのタスクを機械学習で実行できるようになります。ワイド・バンドギャップ半導体の採用を通じて、EV ドライブトレインのいっそうの効率化と大出力化が進む見込みです。半導体業界は、低コストでありながらより安全な車両を可能にする、費用対効果の高い素材と高度な技術で革新を続けます。

私は今の仕事を気に入っています。ハイブリッドや EV のパワートレイン技術の設計する、私とチームが日々行っている業務を通じて、少数のビジョンを持った人たちが描いていた EV の夢を、持続可能な交通手段という現実に変える工程を支援しています。

 

著者:Mark Ng

Mark Ng は、TI の HV/EV (ハイブリッド車と電気自動車) 、さらにパワートレインの事業を指揮し、世界各地の自動車メーカーの電動化業務を支援しています。以前の職位では、彼は TI の高電圧電源事業部で業務開発マネージャとしてアナログ電源製品やインフラ電源製品を担当したほか、製品マーケティング・マネージャやフィールド・アプリケーション・エンジニアを務めました。彼は米国カリフォルニア州のサンタクララ大学で電気工学の学士号と修士号を取得しました。