V2G (自動車からグリッドへの電力供給) に関する 5 つのポイント

電力需要の増加にともない電力グリッド (電力網) が限界に達している中、V2G 双方向充電は、ピーク電力供給能力の解決に貢献します。

11 11月 2022

電気自動車 (EV) の導入が、電力グリッドの持続可能な供給能力に大きな影響を与える可能性があります。

V2G (自動車からグリッドへの電力供給)技術により、EV のバッテリ内電力を、家庭の電力供給に利用したり、需要の高まりに応じて、蓄積した電力を電力グリッド(電力網)に供給することも可能となります。半導体技術は、V2G の展開には不可欠であり、新しい充電とバッテリ・ストレージ(蓄電)ソリューションを通じてエレクトロニクスを推進します。

今回は、TI の複数のエキスパートが、V2G (自動車からグリッドへの電力供給) について知っておくべきこと「5つ」をご紹介します。

V2Gは、経年劣化した電力グリッドの負荷を軽減することが可能

「問題になるのは、グリッドの全体的な供給能力ではありません。課題は、グリッドのピーク供給能力です。電力への依存度が高まる結果、スパイク、つまり突発的なピーク電力需要はそのピーク値が上昇し、しかも発生頻度が高くなる傾向があります。半導体技術を活用すると、このようなピークの緩和に貢献できます。その結果、停電の頻度低下や、エネルギー全体のコスト削減につながります。ここで重要なポイントは、EV 充電をどの時間帯に実行すればよいのかを消費者に簡単に通知できるスマート技術を実現し、その技術を消費者に提供することです。たとえば帰宅時の夕方など、『利用者全員が一斉に同じ時間帯に充電を行う』という事態を回避できれば、グリッドは対処可能となります」
- Henrik Mannesson、グリッド・インフラ部門責任者

双方向充電は V2G の未来を切り拓く

双方向充電は、電流を両方の方向に流す技術です。自動車のバッテリを電力供給源として使用する考え方を採用する自動車メーカーや利用者が多くなるほど、双方向充電は EV の一般的な機能になります。EV はオンボード・チャージャと、必要なハードウェアの大半をすでに搭載しているため、EV にとって双方向充電に移行するためのコストは低く抑えることができます。双方向充電は、単純に自動車からグリッドに電力を供給するだけではありません。EV が電力を家庭に供給することも可能となります。たとえば、停電の発生時にこの機能は役に立ちます。利用者は、EV のバッテリにバックアップ電力をすでに蓄積済みだからです」
- Jason Cole、電流センシング製品の製品ライン・マネージャ

V2Gには、効率的な急速充電技術が求められる

「V2G が機能するには、EV が迅速に充電を終える能力や、グリッドに迅速に電力を供給する能力が鍵になります。高速充電とは、グリッドから EV へ、およびその逆方向で、効率的に電流を転送することを意味します。ここで、GaN (窒化ガリウム) のようなワイド・バンドギャップ技術が登場します。EV とグリッドの間で電力を転送するアプリケーションの場合、従来のシリコン・ベース半導体に比べて、GaN はより高い電力密度と効率を実現するからです。効率が高くなるほど、熱の形で失われるエネルギーが減少します。その結果、充電の際に無駄になる電力は最小限で済みます。この事実は、コストの削減や、グリッドの負担軽減に貢献します」
- David Snook、GaN 製品のプロダクト・ライン・マネージャ

電流センス技術は V2G の効率を高める

「EV とグリッドの間での双方向充電は明快な方法のように思えますが、このプロセス自体は洗練されたセンス技術を必要とします。EV と充電インフラの間の電流と電圧を、高精度かつ信頼性の高い方法で測定できるセンサの能力が必要です。測定精度が向上するほど、グリッドから自動車へ、またはその逆方向で、より効率的にエネルギーを転送することが可能となります。センサを半導体技術と組み合わせると、このニーズを満たせるうえ、高電圧を取り扱い、電磁波を最小化することができます。その結果、良好な測定と通信を実現し、充電効率を最大化できます」
- Navin Kommaraju、絶縁型 ADC絶縁型アンプ製品ラインアップのプロダクト・ライン・マネージャ

高度なコネクティビティは、グリッド事業者 (電力会社) の電力負荷管理を支援する

「V2G を大規模展開するには、高信頼性でフレキシブルなコネクティビティ技術が必要になります。その結果、さまざまな場所で多様な設定を使用している各種充電ステーションの広範なネットワーク全体を対象にして、グリッド事業者は電力需要を予測し、持続可能な方法で電力需要に対応することができます。つまり、大量のデータの収集と共有を行い、電力を必要とする場所に電力を確実に供給するほか、EV の所有者に対しては、充電に最適なのはどの時間帯か、また逆にグリッドに電力を供給するにはどの時間帯が最適かを通知します。コネクティビティで必要なのは、複数のプラットフォームを相互接続する能力や、ヒューマン・マシン・インターフェイスを EV と充電ステーションに、さらにクラウドに連携させる能力です。このレベルのコネクティビティを実現するうえで鍵になるのは、AI (人工知能) 技術を活用できるスマート・プロセッサです。より多くのデータを長期間にわたって収集するほど、AI はグリッドの挙動と使用のパターンに基づき、充電に最適な時間帯と場所をより的確に予測し、EV 所有者に伝えることができます」
- Artem Aginskiy、Sitara™ プロセッサのプロダクト・ライン・マネージャ

双方向の電力変換、電流と電圧のセンシング、コネクティビティとエネルギー・ストレージを通じて、EV とグリッドの関係はますますダイナミックになり、これまで以上に連携を深めることになります。
道路を走行する EV が多くなるほど、半導体技術の革新を通じて、エネルギーの消費と需要のバランスを維持することや、グリッドの電力供給能力と効率を高めることが不可欠になります。