パワー・エレクトロニクスにおける絶縁の重要性

絶縁技術の革新は、より洗練された電気自動車、パーソナル・エレクトロニクス、医療機器などの実現に貢献します

26 9月 2022

高電圧技術の裏側には、たいてい絶縁技術のイノベーションが潜んでいます。

絶縁は、電気自動車 (EV) からパーソナル・エレクトロニクス、自動化された産業向け機器まであらゆるものに組み込まれている重要な基礎技術ですが、ほとんど脚光を浴びることはありません。それこそが、意図するところなのです。

「絶縁について人々の耳に入るのは望ましいことではありません」と、TIの車載電源設計チームを指揮する Pradeep Shenoy は語ります。「絶縁が話題になるということは、問題が生じたということです」

交流 (AC) と直流 (DC) の両方の電源を持つ機器を設計する場合、設計の上で回路の絶縁を維持することは重要です。高電圧を利用する回路では特にそうです。絶縁を適切に実装しない場合、電磁干渉、電気的損傷、短絡、火災、感電が発生する可能性があります。

「絶縁をどのように実装するかは重要です。システムの他の部分に影響を与え、電磁干渉、効率、スペースにも影響を与えるからです」と Pradeep は述べています。「また、ノイズの多い外乱はデータ転送やモーターを妨害する可能性があります。これが絶縁を使用する大きな理由の一つです」

進化する絶縁の課題に挑む

400V または 800V バッテリ・パックで動作する電気自動車など、身近な高電圧アプリケーションの種類が増えた今、絶縁はより一般的な課題となってきています。これらのバッテリを管理し、車両の他の部分と通信するシステムには絶縁コンポーネントが必要です。しかし、一方で車両のサイズ、重量、コストを増加させてしまう可能性があります。また、パーソナル・エレクトロニクスの高性能化と小型化が進むにつれ、電流と電圧のスイッチングに伴う電磁干渉のリスクも増加します。

TIの新しいソリッドステート・リレーは、設計からコンポーネントを削減し、ソリューションのサイズとコストを低減するのに役立ちます。電力と信号伝達を単一のチップに統合し、次世代 EV、グリッド・インフラ、産業用ロボットなどの電力ニーズに対応する十分な容量を実現できます。高密度のチップが集積することで、従来のコンポーネントのわずか 10 分の 1 のスペースに収まります。

「統合しなければ、絶縁を処理するために外部トランスが必要になります。それらの部品によりサイズが大きくなり、設計が複雑になるかもしれません」と、TI の産業用電源設計サービス・チームを指揮する Robert Taylor は語ります。「すべてが自己完結型であれば、信頼性は向上します」

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通常の絶縁設計には物理的なリレーを使うものがありますが、リレーの可動部品により、熱、低温、振動のような悪条件下で故障しやすくなります。電源の絶縁と信号の絶縁を統合したソリッドステート・リレーには、時間の経過に伴って磨耗する可動部品を使用していないため、リレーの予測寿命を最大 10 倍に延ばすことができます。

TIは、磁気式絶縁を半導体デバイスに統合している数少ない企業の 1 つであり、磁気式絶縁と静電容量式絶縁の両方に現在投資している唯一の企業です。TI による静電容量式絶縁と磁気式絶縁、パッケージ開発、およびプロセス技術の進歩により、EV、グリッド・インフラ、ファクトリ・オートメーション、モーター・ドライブなどの産業用システム、車載システムの絶縁バリアをまたぐ形で、安全かつ信頼性の高い電力と高速信号処理を実現できます。

「高電圧は高い電力効率とコスト効率で電力を伝送するために不可欠であり、高電圧のあるところに絶縁は不可欠です」と、TIの研究開発グループである Kilby Labs (キルビー・ラボ) のパワー・マネジメント部門ディレクター、Jeff Morroni は語ります。「たとえば、EV のバッテリ・マネジメントなどのシステムでは、高電圧が機体に伝わらないようにして感電を防ぐ必要があります。絶縁のニーズが増える中で、TI は高電圧システムの安全を確保する革新的な方法を探し続けています」

絶縁の実用

絶縁の重要性をより深く理解するため、今日の主要な市場で絶縁が果たしている役割について考えてみましょう。

電気自動車:EV には推進力を得るための高電圧バッテリ(通常 400V または 800V )と、車内の利便性とインフォテインメントのための、従来の低電圧バッテリが搭載されています。絶縁は、電流からの保護とシステム性能の促進という 2 つの役割を果たしています。

「EV 内の絶縁は、車の電源を切る際に運転者を保護することに加え、EV バッテリの寿命を最大化する上でも重要な役割を果たします」と Pradeep は言います。「絶縁により、バッテリ・セルの監視と保護を行っているシステムから、異なる電圧で動作する中央マイコンに安全かつ正確に信号を返すことができます」

産業オートメーション:絶縁技術の向上により、機器の損傷や人体に有害な影響をもたらす恐れのある高電圧サージからの保護を実現できます。センサ、モーター、ロボットなどの自動化されたデバイスを信号干渉から遮蔽し、信頼性の高い動作を実現します。「絶縁技術は、工場全体のスマートなオートメーションを可能にし、効率、生産性、安全性を向上させている電源、通信、制御機能を保護します」と Robert は言います。「ただし、最も重要な機能は安全性とエンド・ユーザーの保護です」

ソーラーおよびスマート・グリッド:発電や送電が行われるところには、必ず何らかの絶縁技術が必要です。ソーラー・エネルギーを電力に変換する家庭用ソーラー・パネルもその一例です。

「ソーラー・パネルからの高電圧は、絶縁してから AC 電流に変換する必要があります。電圧は電力網を進むごとに降圧する必要があります」と Robert は言います。「屋外のトランスに向けて、高電圧から中電圧へと降圧するたびに、安全に降圧するための異なる絶縁レイヤーが必要になります」

医療機器:ヘルスケア機器では常にコスト削減が重視されています。半導体絶縁デバイスのサイズ縮小と、シンプルさにより、設計者は安全性や機能を保ったまま、より小型な回路を開発できます。最新の半導体絶縁の高い信頼性により、医療機器で求められる高い稼働率と低い故障率に対応できます。

「TI では、高電圧システムの集積回路における絶縁技術を 20 年にわたって開発してきました」と Jeff は言います。「TI は、エンジニアが電源システムの複雑さを緩和して安全性を維持できるように、絶縁を改善する新しい方法を探し続けています。