カメラの信頼性を向上させる超音波レンズ・クリーニング技術

オートノミー(自律性)が進化することで、自動車やドローン、ロボットなどに搭載されるカメラやセンサの数は増加を続けています。純粋な電気駆動方式は、カメラやセンサの清潔さを保つのに役立ちます

27 2月 2023

犬が頭を左右に振って水を振り払う様子をこれまでに目にしたことがある人は、「4本足の物理学」を目撃したことになります。世界初の超音波レンズ・クリーニング・チップセットは、このような発想から生まれました。

犬が本能的に自らを清潔にしようとするのと同じように、超音波レンズ・クリーニング技術は高精度制御の振動を使用し、カメラのレンズが汚れたり水滴が付着したりした場合に、セルフ(自動的に)・クリーニングする技術です。私たちの身の回りで自動化が進む中、自動車やロボット、工場で搭載されるカメラやセンサの数は増加しています。汚れや水滴はカメラの視界をさえぎり、リアルタイムの意思決定に悪影響を及ぼす可能性があり、クリーニング機能はますます重要になっています。

「2015 年の夏、自動走行が普及し始めたころ、近い将来、平均的な自動車には10 から15 台のカメラが搭載されるようになると予測されていました」と、TI の応用研究所である Kilby Labs (キルビー・ラボ) で働くエンジニアの Dave Magee は語ります。「そこで、非常に現実的な疑問が浮かびます。それらカメラをどのようにきれいな状態に維持すればよいのでしょうか?」

水または圧縮空気を噴霧するなど従来のクリーニング・ソリューションでは、自動車のあちこちにあるレンズに、水や空気の配管を通す必要があり取り付けや維持がかなり複雑でした。そこで、Dave は、超音波の振動が、カメラのレンズを清潔な状態に維持するための純粋な電気駆動手法で実現できないか、調査を開始しました。

「圧電 (ピエゾ) トランスデューサという電子機械部品を使用すると、人間の目に見えない微細な振動を作り出すことができます」と、TI のオーディオ事業部で超音波レンズ・クリーニング・プロジェクトに従事する製品マーケティング・エンジニアの Avi Yashar は語ります。「各レンズには自らが振動する固有周波数があります。特にその周波数に合わせた超音波振動を発生させると、ガラスは確実に顕微鏡サイズで振動するようになり、表面に付着していた水滴や汚れのような目に見える残留物を除去することができます」

振動で振り払う

この現象を利用できる超音波レンズ・クリーニング技術を開発するには、レンズの振動とトランスデューサの振動を調整するために、Dave が表現する「非常に複雑ないくつかの物理的問題」を克服する必要がありました。幸い、彼はキルビー・ラボでの研究とテストを通じて、ガラスを壊さずに安全かつ信頼性の高い方法でこれらの振動を制御する方法を発見しただけでなく、オーディオ分野の他のエンジニアと協力して、制御と監視のシステムを世界初の専用設計超音波レンズ・クリーニング・チップセットに統合する作業を開始しました。

「アルゴリズムや、超音波システムを電気的に駆動する方法は、非常にユニークです」と、オーディオ事業のシステム・エンジニアの Kelly Griffin は語ります。「他のソリューションは、複数のチップに加えて別個のマイコンが必要となります。代わりに、私たちは 5 チップソリューションを 2 チップのソリューションに減らしました。その結果、設計者はコンパクトかつ手頃に、開発中のシステムに超音波レンズ・クリーニング機能を統合することができます」

複数のシステムを統合することで、TI の超音波レンズ・クリーニング・チップセットはレンズに障害物が付着したときにそれを自動的に検出し、クリーニング・サイクルを開始してその残留物を除去することができます。これにより人間の介在やメンテナンスの必要性を低減します。さまざまなレンズに合わせて、チップセットのキャリブレーションを実行することができ、クリーニング・システムを監視して誤作動を検出することも可能です。水滴やほこりを振り払うだけでなく、高速な振動を通じて熱を生成し、氷や霜を溶かすことも可能です。

これら機能は全て2 本 1 組の配線で管理できるうえ、カメラの割り当てられた場所にこのチップセットを収容し、すでにカメラの機能向けに敷設された電源ラインやデータ・ラインに重ねる形で実装することもできます。

セルフ・クリーニング・カメラ

超音波レンズ・クリーニング・チップセットは、動作を一時停止し、レンズを手動でクリーニングする必要がなく、アプリケーションの効率化を実現します。

これらのアプリケーションは、自律型動作システムに加え、自動製造ライン、医療用画像処理機器、配送用ドローンなど、カメラのレンズやセンサを搭載しているあらゆる機器がその対象となります。

「レンズのクリーニングをするたびにファクトリ内にある機械や、製造ラインを停止することなく、レンズを定期的にクリーニングするシステムが必要です」と、Kelly は語ります。「あるいは、配送用ドローンの飛行中にクリーニングすることも可能です。この機能は、これらのアプリケーションが雨天時も動作できるようにすることで、大きな利点をもたらすでしょう」

開発チームの次の目標は、この技術を拡張し、LIDAR システムなどが採用している、最大で数インチ (1 インチは 2.54cm) に達する可能性がある、より大きなガラス面に応用できるようにすることです。

超音波レンズ・クリーニングの将来のアプリケーションを予測するとき、この開発チームがもっとも楽しみにしているのは、お客様が開発する多様な新しいアイデアを見ることです。

「超音波レンズ・クリーニングは、あらゆる産業で活用できる可能性があります」と、Avi は語ります。「20 年後、昔は車から降りて自動車のリアビュー・カメラを掃除していたんだと話したら、きっとみんな笑うことでしょう。いずれは自動クリーニングが当たり前になるのだから」