自動車からグリッドへの電力供給ビジョン:電気自動車のパワーを解き放つ

半導体テクノロジーにより、自動車からグリッド(V2G)への双方向充電が実現、これにより電力需要のピーク時にバッテリ電力を提供してグリッドを強化し、電力が高額または不足する場合でも家庭への電力供給が可能となります

05 9月 2022
自動車からグリッドへの電力供給ビジョン:電気自動車のパワーを解き放つ

TI のワイド・バンドギャップ・パワー、センシング、およびコネクティビティの技術により、エンジニアは、自動車からグリッドへのエネルギー蓄積を実現できるようになり、持続可能で効率的かつ低価格なエネルギーの管理への貢献に役立ちます。

電力供給グリッドの経年劣化は、世界中でこれまでにない需要に直面しており、ひずみは自動車の電動化とともに増すばかりです。電力をグリッドに返すことにより電気自動車 (EV) が負担を軽減するとしたらどうなるでしょうか?

自動車からグリッドに電力を供給する V2G として知られる概念は、特に、電力需要のピーク時に、バッテリ電力を供給してグリッドの能力を強化する一連の EV を体現しています。この構想は新しい充電として勢いを増しており、バッテリ・ストレージ・ソリューションが出現し、確かな技術が活用されています。

各国が排出物を低減し、再生可能エネルギーの供給源を増やすように努力しており、この動きは環境目標によっても推進されます。自動車の電動化がその過程の一部である一方で、多くの EV 所有者の電力需要の管理が課題となります。平均的な EV を 100 マイル運転するために必要なエネルギーは、毎日平均的な家庭に電力を供給するために必要な量とほぼ同じです。すべての人が同じ時間に充電した場合、グリッドは相当なストレスを受ける可能性があります。

「問題はグリッドの全体の容量ではありません」と、TI のグリッド・インフラ部門の責任者である Henrik Mannesson は語ります。「グリッドのピーク容量が問題なのです。電力にますます依存するようになるため、このようなピークがどんどん高くなっており、さらに多く起こっていることは、誰もが知るところです。異常気象が、グリッドにさらに負担を与えます。半導体テクノロジーを使用することで、V2G 双方向充電がこのようなピークを取り除くことが可能になるかもしれません。これは、誰にとってもプラスな結果を生み出します」

双方向充電を可能にする半導体技術は、EVとそのバッテリを、必要に応じてグリッドに電力を返すことができるエネルギー貯蔵システムに変えることができます。ワイド・バンドギャップ・パワー・マネージメント、センシング、およびコネクティビティの技術は、電力負荷管理を最適化することによって、より信頼性の高い、スマートかつ安全なグリッドを保証でき、再生可能エネルギーの供給源の拡大への道を切り開く可能性を持っています。

より高速でエネルギー効率の優れた充電機能を実現する GaN技術

より効率的な V2G ソリューションを形作るブロックの1つは、窒化ガリウム (GaN) などのワイド・バンドギャップ技術です。GaN は、従来のシリコン・デバイスと比較して、EV のオンボード・チャージャ、EV 充電ステーション、エネルギー・ストレージ・システムなどのアプリケーションで、電源やパワー・マネージメント・システムの電力密度 (特定のフォーム・ファクタで管理される電力) を実質的に 3 倍にします。これが、高速充電、システム・サイズの縮小、所有コストの削減を備えた設計につながります。

「GaN は、エンジニアが通常のトランジスタの電力密度を 3 倍にし、DC wallboxesなどのアプリケーションのサイズとコストを削減させるのに役立ちます」と、TI の GaN 製品のマネージャ、David Snook は語ります。「サイズと重量の低減は、これらのアプリケーションにおける GaN の魅力的な要素です」

より小型で軽量な充電ステーションは、フレキシビリティの向上を実現するため、グリッド事業者が充電ステーションをより多くの場所に簡単に導入できるようになります。さらに、DC wallbox などのポータブル特性の高いシステムも、EV 所有者にとって必要に応じて家庭で再充電したり、電力を供給したりする家庭での利便性を向上させます。

電流センシング技術がエネルギー節約を実現

センシング技術は EV とグリッドの間でエネルギーが移動する際の効率の追求においても重要です。電圧および電流制御ループを制御ループに実装するには、マイコンは、独立した迅速で高精度の電圧値および電流値読み取りを必要とします。TI の絶縁型アンプと A/D コンバータ (ADC) 製品ラインアップは、小型電流シャント抵抗と組み合わせて消費電力を削減し、高分解能の測定を実現し、電力がグリッドに返された場合に正確な制御を可能にします。

「高精度電流センシングにより、バッテリのエネルギー蓄積をグリッドが使用できる AC (交流) に変えることができます。」と、TI の絶縁型 ADC とアンプ製品ラインアップを管理する Navin Kommaraju は語ります。

「充電状態」を監視することで、EV 所有者のエネルギーの効率的な管理をサポートします。高精度監視により、セルに永続的な損傷が発生するリスクを冒さずに、バッテリから 20% 多い容量を得ることができます。たとえば、ある EV 所有者は、自動車のバッテリを完全に充電された状態に保つ必要がない場合があります。スマートなセンシング技術の精度の向上により、電力をグリッドに返す最適な時間、また家に電力を供給する最適な時間を EV が所有者にアラートを送ることができます。

効率が重要であると同時に、安全性は V2G ソリューションを製造する中で最優先課題です。EV 所有者にとって、電力を EV にシフトしたり、EV からシフトしたりすることの高い信頼性と一貫性が必要とされています。センシング技術に加えて、バッテリ管理システムを使うことで、電圧、電流、温度、その他の性能指標を管理し、バッテリの「健全性状態」を監視するのに役立ちます。

「バッテリ管理システムは 1 次側保護機能です」と、TI の車載バッテリ監視製品を管理する Spencer Hu は語ります。「バッテリが健全でない場合、バッテリの劣化を加速する可能性があり、それがいずれは航続距離に影響を与えるため、所有者はグリッドにバッテリを取り付けないでしょう」

電源の負荷を管理する高度なコネクティビティ・ソリューション

V2G を概念から現実に変えることは、EV、充電インフラ、グリッド間のスマート通信を必要とする、最終的にデータに基づいた作業です。高度なコネクティビティ・ソリューションとスマート・エネルギー計測は、異なる時間枠、異なる場所、異なるシナリオで EV に必要な電源の負荷を予測、調整するグリッド事業者にとって重要です。EV の充電について所有者に請求したり、電力をグリッドに返すことに対して保証したりすることは、大規模に信頼性が高く安全でリアルタイムの通信を必要とします。

同時に、EV 所有者は、WiFi®、Bluetooth®、または Sub-1 GHz など、さまざまなプロトコル経由で接続できるディスプレイやタッチパッドなどのスマートなヒューマン・マシン・インターフェイス (HMI) を必要としています。充電中にさまざまな通信インターフェイスを管理すると同時に、高品質のユーザー・エクスペリエンスを保証することは、シングルチップ上で複数の機能を処理するアプリケーション・プロセッサを必要とします。TI のSitara™ AM62 プロセッサは、ヒューマン・マシン・インターフェイスやEV と充電器のインターフェイス、および充電ステーションとクラウド間の通信の領域全体にわたり、通信を管理するうえで重要な役割を果たします。さらに、エンジニアが ISO15118 プラグ・アンド・チャージ および Open Charge Point Protocol (OCPP:オープン規格の充電ポイント・プロトコル) などの V2G 通信に関するグローバル規格やプロトコルに対応できるようにします。

AM62 のようなプロセッサは、グリッド事業者が電力負荷管理を最適化できるようにしながら、同時に充電の最適時間やグリッドに電力を返す最適時間に関してスマート HMI を通じて EV のドライバーに通知できるようにしています。エッジ側 AI 機能を持つプロセッサも、時間の経過とともに V2G データが収集されて、搭載するグリッドをより多くのインテリジェンスで拡充する体制を整えています。

「1 年のデータ全体のパターンを探すために上部に AI を重ねることができます」と、Sitara プロセッサの製品ライン・マネージャ、Artem Aginskiy は語ります。「グリッドと充電器が現在どのように動作しているのかに基づいて、未来の充電の最適な場所を予測できるでしょう」

V2G を実現できる半導体技術

停電などの事象は予測が困難ですが、EV ユーザーは、家で明かりが消えた場合、半導体技術から利点を得られる立場にあります。V2G の土台となる接続における同じ技術革新により、自動車のバッテリが家に電力を供給できます。このような Vehicle to Home (V2H) ソリューションは、ソーラー・セル経由の家とグリッド、およびバッテリ・ストレージ・システムの間の双方向充電を補完し、再生可能エネルギーの供給源採用を促進する可能性を秘めています。

自動車の電動化を促進するインフラの構築には時間がかかります。しかし、技術の観点から、環境がすべて整ってきています。より効率的な電力負荷管理による V2G の環境上の利点も、注目すべきポイントです。

「半導体技術は、グリッドが自動車の電動化に付随する電力要件に対処するのに役立ちます」と Mannesson は語ります。「同時に、スマート・ソリューションは、EV ユーザーが電力をグリッドに送り返しやすくします」

より良い世界を築き上げるための熱意

車両からグリッドのエネルギー蓄積ソリューションを実現できるようにエンジニアを支援するのは、半導体を通じてエレクトロニクス製品をより手ごろな価格で購入できるようにする方法で、より良い世界を実現するために問題の解決に取り組む TI のさまざまな革新担当者が抱いている熱意を表す 1 つの方法です。各世代の革新は、それより前の世代を土台として、技術の小型化、電力効率の向上、信頼性の向上、低コスト化に貢献しています。TI はこうしたイノベーションを、エンジニアリングの進歩として捉えています。これが、数十年にわたる TI の事業とその成果です。