宇宙基準のICがジェイムズ・ウェッブ望遠鏡の宇宙観測を新たな高みへ

NASA(米国航空宇宙局)は、かつてない解像度と感度で宇宙を見つめる、最大かつ最も強力な宇宙望遠鏡が初めて撮影した画像を公開しました

03 8月 2022

人類はテクノロジーを活用して、次の段階に到達する方法を編み出し、世代を重ねて新しい高みに到達することで、優れた宇宙望遠鏡の導入に成功しました。この望遠鏡は、135 億年以上前に形成された初期の星や銀河を観測し、目覚ましい成果を挙げています。

「長期間にわたりジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の開発に携わってきたエンジニアや科学者は、ようやくその働きの成果を手にすることができました」と、TI で宇宙航空システム部門を管轄する Jason Clark は語ります。「この望遠鏡に注ぎ込まれたエンジニアリングと創意工夫は驚くべきものです。この成果を実現するために TI が供給した各種半導体製品は、この素晴らしい望遠鏡において、非常に洗練された重要な役割を果たしています」

宇宙の歴史研究

これまで合計で数千人の科学者、エンジニア、専門家が 20 年にわたって開発してきたウェッブ望遠鏡は、宇宙の歴史のあらゆる面で研究に役立っています。これまでに製作された中で最大かつ最も強力な宇宙望遠鏡は、かつてない分解能や感度という特長を活かし、惑星、各種天体、太陽系内の構造、宇宙誕生の初期に形成された最も遠い場所にある銀河に関する研究に貢献します。

この望遠鏡は、NASA が主導する国際的な協力体制の成果であり、欧州宇宙機関 (European Space Agency) とカナダ宇宙庁 (Canadian Space Agency) による多大な貢献もありました。 2021 年 12 月 25 日に打ち上げられ、その後 6 か月にわたる調査期間を経て、全面的な導入と、極端に低い動作温度への温度低下、複数の鏡の調整、各種機器のキャリブレーションを実施しました。2022 年 7 月 12 日に、この望遠鏡が初めて撮影した複数のフルカラー画像と望遠鏡のデータが公開されました。

放射線に耐えるチップの設計

人工衛星は、地球上空 100 万マイル (160 万 km) を周回する宇宙望遠鏡であれ、通信やその他のサービスを提供する一般的な低軌道オブジェクトであれ、常に放射線粒子との衝突の危険にさらされています。これらの粒子は半導体チップの性能を劣化させる可能性もあるので、宇宙アプリケーションで使用するチップは通常、非常に過酷な宇宙の環境でも動作を継続できる設計を採用します。

「地球上で私たちが重視するのは電気的性能ですが、宇宙ではそれ以外の要因も考慮に入れる必要があります」と、TI の宇宙電源部門を管轄する Javier Valle は語ります。「デバイスは、放射線環境に耐える必要があります。銀河宇宙線に由来する重イオンや太陽エネルギーの粒子が IC に衝突し、広い範囲にわたって影響を及ぼす可能性があります。IC が永続的に破損する可能性、未知の状態に陥って回復できなくなる可能性、また小規模なグリッチ (短時間変動) が発生する可能性があります。この人工衛星のところへに行き、直接修理ができる人はいないので、この放射線環境にさらされている状態で、継続的に正常に動作するよう、設計者はチップを設計する必要があります」

人間の観測範囲の延長に貢献

TI が提供している一連の宇宙グレード・デバイスや高信頼性デバイスは、ウェッブ望遠鏡が人間の観測範囲を深宇宙にまで拡張できるように、以下の点で必要とされています。

  • データ・コンバータ:各種高精度データ・コンバータはテレメトリ (遠隔測定) と電圧センシング機能を監視し、宇宙船の正常性を監視します。
  • 電源:電圧レギュレータなどのパワー・マネージメント製品は、人工衛星が自らの機能全般を果たすのに必要な電力を生成する点で重要です。この種のデバイスでの障害は許されません。
  • オペアンプ:高速オペアンプなどの各種オペアンプは、画像処理アプリケーションで使用されます。
  • デジタル信号プロセッサ:DSP は、宇宙船内のシステム・コンピューティング機能の動作に貢献します。
  • インターフェイス:トランシーバと LVDS レシーバは、宇宙船のコマンドと制御、また望遠鏡を形成する複数の機器間でのデータを交換するために使用されます。
  • ロジック:ロジック・チップは人工衛星全体の多様なアプリケーションで使用されています。

他の複雑なシステムに加えて、これらのデバイスは、地球から 100 万マイル (160 万 km) 離れた軌道で、衛星の稼働期間全体にわたって動作を継続する必要があります。ウェッブ望遠鏡の前世代である Hubble (ハッブル) 宇宙望遠鏡が1990 年に地球低軌道へ打ち上げられて以来、スペース・シャトルによるメンテナンスが5回実施されました。一方、ウェッブ望遠鏡の軌道は非常に遠いので、人間が行き来することはできません。

TI の放射線耐性強化製品と耐放射線性製品、および技術リソースは、宇宙空間で数十年にわたって動作する衛星システムをエンジニアが設計するのに役立ちます。 TI の宇宙グレード製品と、宇宙システムに関する TI の専門知識の活用で、エンジニアはミッション・クリティカルの要件を満たすとともに、統合の強化、優れた電力密度、最高精度、最大帯域幅を特長とする各種システムの製作が可能になります。

加えて、チップ設計分野での革新は、TI の宇宙グレード・デバイスのサイズ小型化と重量低減に貢献しています。

「人工衛星を宇宙に打ち上げようとするとき、重量が 1 ポンド (0.454kg) 増えるごとに、衛星を軌道に到達させるロケットの燃料を増やす必要があります。より多くの人が、宇宙探査をより広く使用できるように、打ち上げコストを低減することが重要です。チップは小型ですが、人工衛星の設計は多数のチップを使用しているので、チップの重量は積み重なり、結果的に重くなります。TI は、より高い水準の統合を達成しているので、TIのお客様は自社開発の回路やサブシステムの小型化と軽量化を実現できます。その結果、お客様は革新を進め、開発しようとする人工衛星により多くの機能、機器、技術を搭載することが可能になります」

ジェームズ・ウェッブ望遠鏡の画像の提供元は NASA