パワー・マネジメントの将来を形作る 5 つのトレンド

電力密度、電磁干渉( EMI )、絶縁、静止電流、ノイズと精度の性能向上を通じて、エンジニアの電力設計への取り組みをさらに推し進めます

07 5月 2022

スマートフォンや電気自動車 (EV) から、EV 充電ステーションやテレコム・センターまで、私たちが毎日使用するエレクトロニクスを実現するうえでパワー・マネジメントはますます重要な要因です。数年前まで、高効率パワー・マネジメントという考え方は、設計における他の検討事項ほど重視されていませんでした。しかし、流れは変わりました。最近 5 年 ~ 10 年のうちにバッテリ動作時間を延長するとともに、アプリケーションのサイズの小型化、システムの安全性向上、充電の高速化に関連するシステムの信頼性向上やコスト削減に関する消費者の期待に応えるという考え方が広がり、電源設計分野で複数の重要な課題を解決することが注目を集めるようになりました。

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新しいプロセス、パッケージ、回路設計技術に関して、TI は多くの改善を成し遂げてきました。現在も開発を継続し、その結果エンジニアはシステム設計時に最高レベルの効率を達成できるようになっています。世界がより多くの電力を消費している現状で、私たちが必要としているのは、作り出すエネルギーをより遠くまで送り届け、長い時間持続させることです。現在、TIは5 つの重要な分野で世代ごとに改善が進んでいるので、いっそう多くの電力を供給しやすくなっています。

1. 電力密度:従来より小規模なスペースでより多くの電力を供給

各種電子システムは、機能をいっそう増やす必要に迫られています。多くの場合、その増加のペースは入手可能なエネルギー総量の増加を上回っています。その結果、特定のフォーム・ファクタで供給することができる電力の量を増やす必要が生じます。言い換えると、電力密度の向上が求められています。これを実現するのが、効率向上とスイッチング周波数の引き上げです (スイッチング周波数が高くなると、コンデンサやインダクタのような受動素子の単位時間あたりの使用回数が多くなります。そのため、単位時間あたりの実質的な容量、つまり受動素子の容量 x 単位時間あたりの使用回数を一定にする場合、スイッチング周波数を高くするほど受動素子の容量が小さくなり、素子を小型化できます。これは電源回路の小型化につながり、体積あたりの電力供給量、つまり電力密度を高くすることができます)。電源設計者は TI の『TPS22992』ロード・スイッチや、ドライバを内蔵した GaN (窒化ガリウム) FET である TI の『LMG3422R030』を採用すると、より小規模な体積からより多くの電力を供給でき、開発する製品の差別化、効率の向上、放熱特性の改善につなげることができます。GaN に関し、エンド・ユーザーや消費者が強い関心を示してきたのは、AC/DC チャージャやサーバー電源のようなアプリケーションです。これらは、電力密度と効率の向上が高い価値につながります。もちろん、太陽光発電や電気自動車 (EV) を含め、事実上あらゆるアプリケーションにとって電力密度は非常に重要です。エンド・ユーザーや消費者が求めているのは、より小型で、より消費電力の少ないソリューションです。

2. 低 EMI:システム・コストの削減と、EMI 規格への迅速な適合を実現

電磁波(EMI) とは、電流と電圧のスイッチングに伴う、望ましくない副産物です。各種エレクトロニクス・システム、特に車載や産業用の各種アプリケーションにとって、EMI の低減はますます重要になっています。低 EMIを重視した設計を行うと、受動フィルタのサイズ小型化、コストの削減、設計期間の短縮、複雑さの低減を実現できます。TI の同期整流 DC/DC 降圧コントローラなどの各種電力半導体を採用すると、電源ソリューションのサイズを小型化し、その EMI を低減することができます。『LM25149-Q1』と『LM25149』を採用すると、外部 EMI フィルタの面積を従来の半分に小型化、電源設計で発生する伝導型 EMI の低減、または伝導型フィルタ・サイズの小型化と低 EMI の組み合わせを実現することができます。TI の『LMQ66430-Q1』降圧コンバータを採用すると、複数の重要なバイパス・コンデンサや 1 個のブート・コンデンサを統合する方法で、各種業界規格に簡単に適合することができます。TI の各種デバイスは使いやすく、設計の完成の迅速化、フィルタの小型化、各種業界規格への適合が容易になります。

3. 低静止電流 (IQ):システムの性能を犠牲にせずに、バッテリ動作時間と保管期間を延長

バッテリ動作システムの場合、低静止電流 (低 IQ) を維持できるチップが必要です。静止電流とは、デバイスの電源がオンになっているが、スタンバイ・モードにあるときの電流消費量です。長期間にわたって高性能を達成しようとする場合、低静止電流の重要性が高くなります。煙探知器、ヘルス・モニタ、スマート・ウォッチを含め、複数のアプリケーションで低 IQは重要です。これらのアプリケーションは、通電時間の大半をスリープ・モードで過ごします。つまり、それらの機器が必要になった時はウェイクアップして動作を開始しますが、それまで待機しているのがスリープ・モードです。この結果、各種開発機器で静止電流を注意深く最適化することが特に重要になります。たとえば、『TPS61094』昇降圧コンバータは、業界最小の静止電流 (IQ) を達成すると同時に、スーパーキャパシタの充電機能を内蔵しています。その結果、スマート・メーターなど、バッテリ動作の産業用アプリケーションのバッテリ動作期間を延長することができます。TIの回路とプロセスの進歩によりバッテリ動作期間を従来と同じ長さに維持しながら、より多くの機能を求めているお客様のニーズを満たすことができます。

4. 低ノイズと高精度:電源とシグナル・インテグリティの強化

ノイズとは、あらゆる電気系部品が生成する電気的副産物であり、さまざまな発生源が関係しています。TI が提供する低ノイズ製品ラインアップを活用すると、TI の IC が自己生成するノイズの最小化と、上流の生成源で生成されたノイズのフィルタリング (除去) の両方を推進できます。仮にこれらのノイズを低減しない場合、医療機器や通信インフラなど、ノイズの影響を受けやすいアプリケーションの性能に悪影響を及ぼす可能性があります。低ノイズが特に重要になるのは、A/D コンバータ、アナログ・フロント・エンド、各種 IC 向けのクロックのような高精度回路に電力を供給する電源です。TI の『TPS7A94』は、生成ノイズが業界最小クラスの電圧レギュレータであり、優れた電源除去比 (上流の電力供給源で発生したノイズを除去する能力) も達成しているので、ノイズが負荷に達する前にノイズをフィルタリングで除去することもできます。

5. 絶縁:安全性の向上

人間と機械の相互作用が発生する環境で、絶縁は重要です (たとえば、エレベータや寒冷地を走る電車など、高電圧と人間の操作の両方が関係する機器で、仮に高電圧側で漏電が発生した場合、ドア開閉ボタンを押しただけで感電する事故になります。そのような事態を防ぐには、電力の直接的な伝達を防ぐ電気的絶縁を実施すると同時に、磁気結合:トランス、光結合:フォトカプラ、容量結合:ある程度の距離を隔てた 2 個のコンデンサ など、高電圧側と低電圧側の電線を直結しない方法で信号を伝達する必要があります)。絶縁とは、保護を実現すると同時に、信号の交換や電力の伝達を実現するバリアであり、高電圧システムで信頼性と安全な動作を実現するうえで不可欠です。たとえば、TI の『UCC14240-Q1』のような高密度絶縁型 DC/DC バイアス電源モジュールを EV (電気自動車) のトラクション・インバータ内で使用すると、ゲート・ドライバに電力を供給すると同時に、高電圧ドメインと自動車のシャーシの間で絶縁を維持することができます。TI の各種絶縁テクノロジーを採用すると、システムの信頼性の向上、フォーム・ファクタの小型化、EMI 規制への準拠の簡素化を実現できます。

TI は電源の革新の最前線で、お客様がさまざまな重要分野での性能を向上させることを支援できるよう、集中的に取り組んでいます。回路設計者は、プロセス、パッケージング、回路設計の改善を活用し、エレクトロニクスの効率改善、より手ごろな価格設定、世界のグリーン対応を進めることができます。