BMS がもたらす将来:より安全で、より手ごろな電気自動車

自動車メーカー各社が新しい EV (電気自動車) のバッテリ・ケミストリーを検討する際に、高度な半導体技術を採用したバッテリ管理システム (BMS) は従来より重要になっています。

25 2月 2022

TI は、バッテリ管理システムを継続的に革新し、自動車メーカーの皆様が新規開発のバッテリ・ケミストリーを設計され、 EV の安全性と手ごろな価格を実現されることを支援します。

電気自動車 (EV) が一般的になりつつある現在、広く使用されることを進めるうえで、大きな障壁になっている要因は、航続距離、安全性、性能、信頼性、コストです。高度バッテリ管理システム (BMS) は、これらの障壁を克服するのに役に立ちます。半導体は、これらのシステムの中心的な要素です。

“「内部燃焼車両と比べると、EV では半導体技術がより大きな役割を果たします」と、TI で EV のバッテリ・モニタ向け製品の開発チームを指揮する Sam Wong は語ります。


「TI のチップは、バッテリ・パックに比べて数分の 1 のコストで、大きな利点をもたらします」

最新の BloombergNEF レポート (英語) によると、2020 年の時点で世界全体の乗用車市場における EV の市場占有率は 5% 未満にとどまっています。しかし、大手自動車メーカーの多くは、今後 5 〜 10 年間で主に EV ラインナップに移行することを約束しており、環境に配慮した、より持続可能な未来へと向かっているため、EVの市場占有率は急速に上昇する見込みです。主要な消費者層にとって、バッテリ技術の進歩は重要な要因になります。自動車の革新を前進させるこの分野で、TI は積極的に活動し、エンジニアがバッテリ・ケミストリーと構成に取り組むのに役立つ新しい技術を導入しています。これらの進歩はすでに従来型と最先端両方のバッテリ技術を通じて、EV の価格、性能、信頼性の改善をもたらしています。

mV 単位の測定精度が航続距離延長に貢献

新しいバッテリ・ケミストリーは、1 つの大きな機会をもたらします。大半の EV は、リチウムイオン・バッテリを動力源としてきましたが、その主要原材料の 1 つであるコバルトは供給不足のレアアース (希土類元素) です。しかし今、EV 業界はコバルトを使用しない代替バッテリ・ケミストリーであるリン酸鉄リチウム (LFP) の採用を始めています。LFP はより豊富で、採掘の持続性も高く扱いやすいので、より安価で効率的な代替選択肢になっています。

鉄はコストがより低く、相対的に豊富に存在することから、LFP はより持続性の高い選択肢になっていますが、ケミストリーには 1 つの短所があります。EV は、残存電力量を測定する際、バッテリの電圧低下の測定に依存しています。残存電力量は、ドライバーにとって残りの航続距離を意味します。放電時に電圧が安定して低下するコバルトベースのバッテリとは異なり、 LFP バッテリの電圧低下は非常に小さく、間もなく電力が完全に枯渇するという状況であってもこの傾向は同じです。この特性が原因で、LFPの残存電力量の予測は困難です。

「LFP の平坦な放電レートが原因で、高精度の電圧測定が必須になります。その水準は、最新の半導体技術が実現できる限界と同じ水準にあります」と、TI の BMS システム・マネージャである Mark Ng は語ります。

従来の BMS デバイスは、バッテリー電圧を約 5 ミリボルトの精度で測定しますが、 LFP バッテリーの場合、その精度は約 25 % の走行範囲の不確実性につながります。  精度が確保できない場合、メーカー各社は航続距離を過小推定するよう対処する必要があります。高速道路を走行中にバッテリの電力が枯渇し、ドライバーが驚きと不安を感じるようなことがないよう、実際に利用可能な距離よりも 25% 短い残りの航続可能距離を報告します。

このような状況のなかで、TI の最先端技術が役立ちます。TI の高精度バッテリ・モニタを活用すると、自動車メーカーはより正確な航続距離を提示できます。

「実際は 402.3km 走行できるにもかかわらず、残り航続距離が 321.8kmであると報告する代わりに、TI のチップを活用すると、残り航続距離が 370.1kmであると報告できる可能性があります」と、Mark は語ります。「同じバッテリと同じ充電方式を使用していても、この BMS を採用すると、実質的に航続距離を48.3km延長することができます」

この航続距離延長によって、LFP バッテリが実用に値すると保証できるようになります。その結果、自動車メーカーは自信をもって最新ケミストリーに切り替え、EV の持続性を向上させ価格を手ごろなものにすることができます。

バランシング関連の動作

自動車の航続距離を延長することに加え、1 台の EV のバッテリ・パックに搭載している 200 個前後のセルの安全性と耐久性のためにも高精度モニタは不可欠です。仮に 1 個のセルが他のセルより早く放電する場合、バッテリ・パックの残りの部分はまだ電力を残しているにもかかわらず、そのセルは枯渇に近い状態に達する可能性があります。枯渇に非常に近い場合、そのセルは永続的に損傷する可能性があります。今後はそのセルが充電した電力を保持できず、そのセルのグループ全体が永続的に使用できなくなることにつながります。充電の際の懸念は、1 個のセルが他のセルより早期に充電容量の上限に達することです。この場合、そのセルを過充電するリスクが生じ、過熱という危険な状況を作り出す可能性があります。

TI のバッテリ・モニタはその高精度さを生かして、特定のセルを示し、そのセルが枯渇または過充電のリスクにあることを早期に知らせることができます。そして、そのセルとの接続を解除することによって、過放電つまり蓄積した電力を過度に放出することを防止します。その結果、運転中や充電中に、パック全体のセルバランスを維持することができます。また、この種のデバイスはバッテリ温度の上昇も計測します。温度上昇は、過充電または他の問題に関する兆候の一つです。

「BMSは 精巧なモニタリングネットワークでもって、各セルの電圧、電流、温度をセンスすることができます」と、Sam は語ります。「TI はこの方法で、バッテリをシステムから接続解除したり、流入または流出する電流を調整することができます」

BMS は電圧を測定するために、独立したセンサを 2 個搭載する方法で冗長性を実現しているので、それらの値が不一致になった場合はシステムにフラグを立てることができます。

システムからバッテリを接続解除するタスク自体にも、独自の課題と解決策があります。より電圧の高いバッテリの積層化、より高速な充電の要件、より強力なトラクション・モーターは、いずれも、次世代の電気自動車を製作する際に、電力の配分、堅牢性、安全性の観点からこの種の接続解除システムに独自の課題をもたらします。

革新につながるフレキシビリティ

メーカーが新しいバッテリ・ケミストリーを導入するにつれ、より強力なバッテリ・パックと、個別セルの多様な構成方法が生まれています。それらはさまざまな方法で組み合わされ、EV の製品ラインが導入されることにつながっています。
。TI の製品ラインアップは複数チャネルの各種オプションを提供し、しかもそれらが同じパッケージでピン互換性を確保しているので、すでに開発済みのソフトウェアを広く再利用することができます。TI の製品ラインアップの重要な特長の 1 つは、自動車メーカー各社が採用を決めたどのようなバッテリ・ケミストリーや構成とでも組み合わせて使用できるということです。そのため、自動車メーカーは研究開発コスト、ソフトウェア開発のコストと時間を節減することができます。

「自動車メーカーが複数のケミストリーや構成に取り組んでいる場合、同じ製品ファミリに属する多様なバッテリ・モニタ・デバイス・オプションを活用できることは重要なことです。」と、Mark は語ります。「複数のプラットフォーム間でスケール化を実現できることは、EV のコスト削減につながり、より早く市場に送り出すことができます」

BMS 関連の革新は今後も続くTI は電圧精度に関する境界を絶えず押し上げ、各チップに一層の制御機能を内蔵する方法で、自動車メーカーが真の潜在能力を発揮できるようにしています。加えて、TI は研究開発の目的を、最新のバッテリ・タイプを高精度でサポートできるように、BMS ソリューションを確実に最適化することだとしています。「業界で研究の対象となっている他のバッテリ・ケミストリーは、おそらく百種類前後に達するでしょう」と、Sam は語ります。「それらのケミストリーを最大限活用できるように、TI は BMS 製品がフレキシビリティを提供することを目指しています」

より良い世界を築き上げるための熱意

電気自動車の安全性向上と手頃な価格設定を可能にするよう自動車メーカーを支援することは、半導体を通じてエレクトロニクス製品をより手頃な価格で購入できるようにし、より良い世界を実現しようとするTIの熱意の表れの一つの形です。各世代の革新は、それより前の世代を土台として、技術の小型化・効率・信頼性の向上、低コスト化に貢献しています。TI はこうしたイノベーションを、エンジニアリングの進歩として捉えています。これが、数十年にわたる TI の事業とその成果です。