低静止電流を活用してバッテリ動作デバイスの変革を実現する方法

低静止電流はスマート・デバイスから煙探知器まで多様なデバイスのバッテリ動作期間を延長します

08 12月 2021

Keith Kunz は、米国アリゾナ州トゥーソンの 自宅付近にある峡谷で、マラソンのトレーニングをするのが趣味です。明るいクラシック・ロックやカントリー・ミュージックの組み合わせを流すワイヤレス小型イヤホンと、スマート・ウォッチの走行距離機能は、30 マイル (48.27km) の長距離走を楽しむのに役立っています。

課題は、スマート・ウォッチと小型イヤホンに搭載しているバッテリを最大 3 時間にわたって持続させる必要があるということです。この課題を克服するのが、それらのデバイスに搭載したバッテリから引き出す電流を管理する技術です。彼がこれらのデバイスを使っているときも、Sabino Canyon (サビーノ・キャニオン) の見事な景色に見とれてデバイスが低消費電力モードになっているときも、この技術が動作しています。

Keith は TIの上級技師であり、人望ある テクニカル・ラダー(他の従業員の技術的指導役)を務める技術スタッフでもあります。彼は、このような動作を可能にする低静止電流とパワー・マネージメント技術に関して、いくつかの質問に答えてくれました。

質問:低静止電流とは何ですか?

Keith Kunz:「静止」とは、スリープ状態または非活動状態を意味します。低静止電流とは、デバイスの電源がオンになっているがアクティブではないときに、そのデバイスが消費する電流のことです。つまり、デバイスがスタンバイ・モードやスリープ・モードのときです。

最新の自動車が採用しているアイドリング・ストップ機能と比較することができます。ドライバーが赤信号で自動車を停めたとき、自動車は自動的にエンジンやモーターの回転を停止し、低静止状態に移行してエネルギーを節約します。その後、ドライバーが自動車を再度走行させるときに、エンジンとモーターは自動的に動作を開始します。

TI の IC も同様の方法で動作します。エンド・ユーザーが TI の IC を使用しているとき、多くの電流を流します。一方、IC を使用する必要がない時は、電流の量を絞り込みます。

質問:どのような状況から、低静止電流回路の需要が生まれたのでしょうか?

Keith:低静止電流チップの需要が生まれたのは、煙探知器、健康管理モニタ、スマート・ウォッチ、水道メーターなどのバッテリ動作アプリケーションです。たとえば、煙探知器は重要なアプリケーションであり、家屋が停電状態にある場合はバックアップ・バッテリを使用して動作する必要があります。

TI の各種製品で低静止電流のパワー・マネージメント・ブロックを細かく最適化した結果、そのようなシステムのバッテリ動作期間が 2 年だったものを 5 年に、また特定の状況では最大 10 年に延長できることがわかりました。たとえば、TI の『TPS61094』昇降圧コンバータは、以前はトレードオフの関係にあった 2 つの重要な利点の両立を実現しています。統合型昇降圧コンバータの採用に伴う設計の簡素化と、大出力電流および低静止電流の組み合わせを通じたバッテリ動作期間の延長です。スーパーキャパシタの充電機能は、各種スマート・メーターなど連続動作を必要とする多様なアプリケーションのサポートに役立ちます。

現在はバッテリ接続を採用していないアプリケーションであっても、低静止電流技術を必要としています。回路設計者は一般的に、回路基板 (プリント基板) のより狭い面積に、より多くの機能を搭載する傾向にあるからです。その結果、節電および発熱低減を目的として、どのモードでも消費電力を低減する必要があります。

IoTは、将来の需要を拡大する有力な原動力の役割を継続的に果たす見込みです。電力密度のいっそうの向上と機能拡大を追求するお客様のニーズを満たせるように、回路とプロセスの進歩、コスト削減、性能向上という形で TI は対応を進めています。

質問:低静止電流は、他のどのようなアプリケーションで役割を果たしていますか?

Keith:より狭い面積に、より多くのエレクトロニクスとより多くの機能を搭載する必要のある回路で、設計者は低静止電流の半導体デバイスを活用しています。たとえば車載市場で、『LMR43610-Q1』や『LMR43620-Q1』のような降圧コンバータ・チップを活用すると、スタンバイ・モードでの電力節減と小型ソリューションを必要とするインフォテインメント・システムなどのアプリケーションで、低静止電流とバッテリ動作期間の延長を実現しやすくなります。これらの降圧コンバータは外部部品点数の低減にも役立ち、システム・コストの削減につながります。

 

質問:低静止電流を採用すると、世界のグリーン対応を推進できますか?

Keith:低静止電流の採用が急激に進んでいる最終製品市場の 1 つは、ビル・オートメーションです。現在、バッテリ動作システムとエネルギー・ハーベスト・システムは、99% 以上の時間にわたってスタンバイ・モードにとどまっています。それらの IoTシステムは、周囲の環境をセンシングすることで、冷暖房、照明、水の供給をいっそうインテリジェントに制御できます。静止電流を低減して IoT システムの効率をいっそう改善することで、TI は二酸化炭素排出量低減の分野で責任を果たし、環境保護に貢献することができます。このような理由で、ネットワーク接続型デバイスの効率をいっそう高める流れに、私も貢献していきたいと思っています。