ADAS:自動車の安全性向上を推進するTIの技術

自動車の安全性向上とスマート化を推進する先進運転支援システム (ADAS) は、自動車メーカーが掲げる「衝突事故のない未来」の実現に向けて

03 11月 2021

実装が容易で、コスト効率の優れた先進運転支援システム (ADAS) を自動車メーカー各社が製造できるようTIが支援することで、自動車の安全機能がさらに主流になり、より手頃な価格で提供されるようになります。

変化はわずか 1 秒で発生します。スマートフォンに届いたメッセージや、後部座席に座っている子供に気を取られ、路上走行中の注意力が散漫になっている間にも、自動車は数メートルから十数メートル進んでしまいます。何らかの予期しない理由で先行車が停止していた場合、自動車が先行車に急速に接近する結果につながります。

自動緊急ブレーキ・システムを搭載していれば、通常は前方にある物体を検出し、数ミリ秒 (ms) のうちに自動的にブレーキをかけることができます。しかし、検出に失敗した場合はどうなるでしょうか。

完全な自動運転車の実現はまだ先のことかもしれません。ただし、自動処理が安全性に及ぼす影響はすでに実感できるものになっています。アダプティブ・クルーズ・コントロール (ACC、車速の制御を通じて先行車との車間距離を自動的に調整) や死角モニタなど、ADAS技術の実装がより手頃になり、多くの車両モデルにおいて主流となっていることにより、自動車の安全機能はスタンダードになりつつあります。

「現実の世界で、多くの人々が必ずしも優れたドライバーであるとは限りません。現在のコンピュータが苦手とする、先が見えない曲がり角に差し掛かったときでも、TI は事態の改善に貢献できます」と、Jacinto™ プロセッサの責任者である Curt Moore は語ります。「現時点で完全な自動運転車を製作するのは困難ですが、その一方で、自動的な車線逸脱防止機能や、渋滞の中で停止と発進のタイミングを感知する安全機能を追加することで、自動車の安全性をより高める大きなチャンスでもあります」

自動車のスマート化推進と衝突事故の防止

ADAS技術を採用した自動車は、気象条件の変化や、路上にある物体の検出など、ドライバーと同様の動作を行い、リアルタイムに判断し、安全性を向上させることができます。ADAS 機能には、自動的な緊急ブレーキ、ドライバー監視機能、前方衝突警報、アダプティブ・クルーズ・コントロールなどがあります。

米国だけで 1 年間に 270 万回の衝突事故1が発生している現状で、この技術はそれらの衝突を防止する潜在能力があります。

video here

「TI は自動車の制限速度を動的に変化させる方法に注目しています。走行している場所ごとの制限速度は当然のことですが、雨が降っているかどうか、また道路がどれほど混雑しているか、など周囲の状況を分析することも、適切な速度設定の基準になります」と、TI の ADAS の部門責任者を務める Miro Adzan は語ります。「私たちはこの先、自動車が自律的に判断できる基準が大幅に向上するのを確実に目にすることになります。そのような変化は、衝突と致命的な事故の減少にもつながるのです」

オンチップ・レーダー

自動車業界で 現代の運転支援技術 の採用が広まるより10 年以上前に、画期的な革新を目的とした TI の研究施設であるKilby Labs に所属するエンジニアは、ADAS のような概念を具体化するのに役立つ技術に取り組んでいました。

危険な事態に対処するためには、あらゆる気象条件や照明条件の下で、自動車は物体を分類するとともに、その距離を正確に判定する必要があります。このような目標を実現する方法の1つは、レーダー技術を使用することです。しかし、これまでのレーダー技術は、大型かつ高額で、消費電力が大きく、個別の歩行者ではなく、航空機や戦車など大型の物体を検知する設計を採用していました。

「TI はこの課題に対処するために、多くの検討、努力、投資を通じて、レーダー・システム全体をシングル・チップに統合することを出発点としました」と、TI のレーダー責任者である Yariv Raveh は説明します。「このような取り組みは、以前は他のどの会社も実施していませんでした」

その成果が、コイン 1 個ほどのサイズのTI のミリ波高周波レーダー・センサです。その分解能は物体の存在を検出できるほか、自動車と歩行者のどちらであるのか識別し、米国の New Car Assessment Program (NCAP、新車アセスメント・プログラム) のような自動車分野の最新の安全基準をシングル・チップで満たすことができます。

このレーダー技術を統合型のデジタル信号プロセッサ (DSP) と組み合わせた結果、TI のミリ波レーダー・センサ・チップは物体を分類するマシン・ビジョン・アルゴリズムをチップ自体で直接実行することができます。この統合の結果、ADAS メーカーは開発業務を簡素化でき、低消費電力かつリア・バンパーの内部に収容できる小型のシステムをわずかなコストで製作できるようになります。

多様な情報を活用する自動車の実現

TI のミリ波技術には手ごろな価格設定や優れた効率という利点があるので、ADAS の重要な要素としてレーダーを使用することができます。ただし、多分野にわたって十分な信頼性を確保するには、高分解能の LiDAR やカメラから取得できるカラー情報など、レーダー以外の多様なセンサのさまざまな利点も必要です。TI のFPD-Link™シリアライザとデシリアライザは、複数の車載システム間で無圧縮ビデオ・データを送信し、高解像度のカメラから取得したデータをアダプティブ運転支援システムや車内のインフォテインメント・ディスプレイで活用するのに役立ちます。この方法で、衝突事故防止や歩行者検出を目的とするフロント・ビュー・カメラや、バック時の安全確保を目的とするリア・ビュー・カメラ、またパーキング・アシスト目的のサラウンド・ビュー・カメラなど、カメラによる安全機能を追加し、組み合わせて活用することができます。

複数のセンシング・モードから取得した情報を融合する、つまりセンサ・フュージョンを実行すると、交通量が非常に多い地域や危険な気象状況など、危険性のある状況にドライバーが対処するのに役立つ情報を自動車から提供することができます。

「センサ・フュージョンは、さまざまな方向から取得した情報を提示し、ドライバーが自動車の周囲の情景をより包括的な方法で把握するのに役立ちます」と、Miro は語ります。「センサのデータをCPUに送信します。機械学習アルゴリズムはそのデータを使用して周囲の環境を解釈します。この状況で、たとえば自動車のブレーキング・システムにコマンドを送信し、衝突事故を防止することができます」

安全第一の設計

どの ADAS システムでも、設計時の主な懸念事項は安全性です。そのため、処理能力が重要になります。接続や通信、モニタリングや事故防止に役立つ意思決定などを通じて車両がよりスマートになるにつれて、高度な安全機能を可能にする膨大な量のデータを処理するために必要な計算能力は飛躍的に向上しています。

TI のJacinto プロセッサは、自動車が周囲を認識する能力を向上させ、ソフトウェア定義の自動車の中でデータ共有を推進するほか、マルチレベルのコンピューティング能力をリアルタイムで効率的に管理すると同時に、消費電力の多いメモリ転送を減らすことができます。

プロセッサのアーキテクチャ自体に加えて、独立評価機関であるTÜV SÜDが制作した、機能安全に関する包括的な資料と開発の認証プロセスは、必須の機能安全規格に確実に適合するために必要な情報を自動車メーカー各社に提供します。

「自動車の安全性は、道路走行中のすべてのドライバーにとって重要です」と、Miro は語ります。「自動車メーカー各社が衝突事故のない未来という構想を目指す際に、レーダー、センサ・フュージョン、組込みプロセッシング、パワー・マネージメント、通信のどれを使用する場合でも TI の技術はメーカー各社を継続的に支援できます」

より良い世界を築き上げるための熱意

自動車の安全性を向上できるように自動車メーカー各社を支援するのは、半導体を通じてエレクトロニクス製品をより手ごろな価格で購入できるようにする方法で、より良い世界を実現するために問題の解決に取り組む TI のさまざまな革新担当者が抱いている熱意を表す 1 つの方法です。TI は長年にわたる各世代の改良と革新を通じて、エレクトロニクスの小型化、効率化、信頼性の向上、低コスト化を実現してきました。TI はこうしたイノベーションを、エンジニアリングの進歩として捉えています。これが、数十年にわたる TI の事業とその成果です。

1.) https://aaafoundation.org/potential-reduction-in-crashes-injuries-and-deaths-from-large-scale-deployment-of-advanced-driver-assistance-systems/