EMIの課題への取り組み

電子機器のパフォーマンスの向上が期待されるにつれ、電磁干渉(EMI)の軽減がますます大きな課題となっています。

16 5月 2021

アクティブEMI(電磁干渉) フィルタを内蔵した初の電源デバイスを含め、EMIを低減するためにTIがさまざまな革新的手法やテクノロジーを開発することで、お客様は電源密度を犠牲にせずに、システム・コストの低減とEMI規格への適合をいっそう容易に実現できるようになります。その結果、より小型で、より信頼性が高く、より手頃な価格のエレクトロニクス製品を実現しやすくなります。

これまでに家の中でLED照明がちらついたり、ラジオから奇妙なノイズが聞こえたりした場合、ひょっとしたら超自然的な現象だとお考えになったかもしれません。しかし、TIのマルチチャネル / マルチフェーズ DC/DC 製品を担当する Cecelia Smith は、そのような現象は電磁干渉 (EMI) の一例とも考えられると説明します。

ただし、EMIは、単にエレクトロニクス機器が引き起こす煩わしい、または気味の悪い現象というだけではありません。最悪の場合、EMIは電子部品の障害につながる可能性があります。デバイスの小型化や、部品間の距離の近接化が進むと、エンジニアにとってEMIの低減がいっそう大きな課題になります。

「消費者はエレクトロニクス製品の性能改善を望み、また期待します。その結果、開発者は引き続きEMIの解決という問題に取り組む必要があります」とCeceliaは言います。「TIは、発生するEMIの量を低減するさまざまな手法の開発を進めており、エレクトロニクス製品のいっそうの小型化、信頼性の向上、より手頃な価格での提供を支援しています」

EMIが問題となる理由

互いに近接した複数のエレクトロニクス回路は、意図しないEMIという形で互いの動作を妨げる可能性があります。これはシステム部品の性能低下や損傷の原因にもなります。

EMIの最大の生成源になる可能性がある回路の1つが、スイッチモード電源です。これは、効率的な電力変換を理由として、広く採用されている回路です。これらのコンバータは、電圧と電流の高速なスイッチングを行う結果、一般に大量の放射型EMIと伝導型EMIを生成します。

エレクトロニクス製品の縮小が進展するとEMIは悪化します。スイッチモード・コンバータの優位は続くと予期できるので、各種エレクトロニクス製品を設計するエンジニアは、これらの電源が生成するEMIの低減に必然的に取り組むことになります。仮に問題を放置し、設計フェーズの遅い段階までEMI対策を先送りした場合、手戻りが生じて開発期間とコストの両方に影響を及ぼす可能性があるからです。

「エレクトロニクス製品の小型化とネットワーク接続が進む中で、私たちの日常生活にも半導体の継続的な増加が見られるようになっています」と、Kilby Labsで電源、絶縁、モーター部門のマネージャを務めるJeffrey Morroniは語ります。「より洗練された、より複雑なこの種のエレクトロニクス・システムはますます小型化が進み、より多くの部品の近接化が進行します。このようなトレンドはEMIの増加につながり、関連する課題も含めて、エンジニアは睡眠時間を削られることになります」

EMIを低減する方法

TIのエンジニアは、多様な革新的アプローチを通じて、EMIの問題に長年取り組んできました。

現時点で最新の進展は、TIの新製品である42V対応のLM25149 DC/DC 降圧コントローラです。TIのシステム・マネージャであるAmbreesh Tripathiによれば、この製品はアクティブEMIフィルタを統合した初の電源デバイスであり、高周波ノイズを検知して、それらのノイズを通過させるための低インピーダンスの経路を提供します。

「かさばり、コストのかかるパッシブ・フィルタを、非常に小型のフィルタで置き換えるほか、さらに優れたことに、シリコン単体でフィルタリングを実現します」と、彼は言います。「このデバイスを使用すると、設計エンジニアは外部EMIフィルタのサイズを半分に縮小することができます」

Jeffは、アクティブEMIフィルタをノイズ・キャンセリング・ヘッドホンになぞらえます。

「ノイズ・キャンセリング・ヘッドホンには、周囲の環境で発生している可聴ノイズを測定するセンサがあります。また、そのノイズがユーザーの耳に実質的に聞こえないようにノイズを打ち消すスピーカーも搭載しています」と彼は説明します。「TIの今回のソリューションは同様の原理で動作し、EMIをキャンセルするので、全体のノイズは減少します。この問題を解決できるようにTIが支援するので、お客様は他の個所に集中することができます」

ADASから航空宇宙まで

先進運転支援システム (ADAS)車載インフォテインメントとクラスタビル・オートメーション航空宇宙 / 防衛関連設計といった各分野でのエレクトロニクス搭載量の増加に伴い、電源内でのEMIの低減は、設計エンジニアにとって難しさを増し続けている課題です。

「TIでは、同じ面積や体積でより多くの電力を供給するという課題に取り組んでいますが、電力密度が上昇すると、EMI生成の可能性も高くなります」とCeceliaは言います。「たとえば、自動車は変化を続けており、10~15年前とはかなり異なる外見になるでしょう。インフォテインメント・システムからカメラ・システムやハイエンド寄りのLIDARまで、これらの機能がどのように進化して、互いにシームレスに連動する融合型アーキテクチャになる可能性があるのか、自動車メーカー各社は検討を進めています」

エンジニアはTIの新しい電源チップを採用することで、開発中の設計で電力密度を犠牲にせずに各種EMI規格に準拠でき、より小型、より高度なシステムを実現しやすくなります。これらの製品はTIの幅広い電源製品ラインアップの一部であり、多様な種類の伝導型EMIや放射型EMIへの対処に役立ちます。

「TIはEMIの課題解決を継続的に支援できるように、この分野の多様な領域に取り組みます。同相モードと差動モードの電磁波や、高電圧と低電圧の各種アプリケーションが対象です」とJeffは言います。「このテクノロジーを通じて、これまでTI製品で問題を解決できるとは考えていなかったお客様が、TIが問題解決の優れたパートナーであるという事実に目を向けていただけると幸いです」

より良い世界を築き上げるためのTIの熱意

EMIを低減できるようにお客様を支援することは、TIのイノベーターたちが、半導体を通じて電子機器をより身近なものにすることで世界をより良くしようという、TIの熱意を体現していることを示す 1 つの例です。各世代のイノベーションを通じて、小型化、効率化、信頼性の向上、低コスト化を実現するテクノロジーを構築してきました。その結果、新しい市場を開拓し、半導体はあらゆる分野のエレクトロニクス製品に採用されるようになっています。TIはこれらのイノベーションを、エンジニアリングの進歩と捉えています。これが、数十年にわたるTIの事業とその成果です。